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IT産業における賃金上昇は企業内昇進よりも転職によって達成されるのか

tokeisan4

ITエンジニアのキャリアについて語られるとき、よく言われるのが「給料を上げたいなら転職するしかない」という言葉である。 実際、多くのエンジニアが数年おきに転職を行い、そのたびに年収を上げている。一方で、同じ会社に長く在籍しているエンジニアは、昇進しても給与の伸びが緩やかであるケースが少なくない。 本稿では、なぜIT業界では「企業内昇進」よりも「転職」によって賃金が上がりやすいのか、その構造を整理してみたい。 ■ ITスキルは「持ち運びできる」 労働経済学では、人間のスキルを「人的資本」と呼ぶ。この人的資本には大きく二種類ある。企業固有のスキルと、他社でも通用するスキルだ。 ITエンジニアのスキルは後者の比率が高い。例えばLinux、Python、AWS、Kubernetes、SQLといった技術は、基本的にどの会社でも価値がある。つまり「その会社にいないと価値が出ないスキル」ではない。 このようなスキルは市場価値が外部で評価されやすい。そのため、会社の内部で昇給を待つよりも、転職市場で評価してもらった方が賃金が上がりやすい。 ■ 企業の給与テーブルは市場より遅れて動く 企業の給与は多くの場合、年功・社内評価制度・昇進などによって決まる。 しかしIT人材の市場価格は、技術トレンドや人材不足によって急激に変化する。例えばクラウド、AI、セキュリティといった分野では、短期間で人材の市場価値が跳ね上がることがある。 企業内部の給与制度はこうした変化にすぐには対応できない。結果として、社内給与<転職市場の給与という状況が生まれる。この差を埋める最も簡単な方法が転職になる。 ■ 日本のIT業界特有の構造 日本ではさらに特殊な事情がある。それがSES(客先常駐)多重下請け構造である。 IT業界では、発注企業→一次請け→二次請け→三次請けという商流が珍しくない。この構造では、エンジニアの単価が上がっても、その利益が必ずしも給与に反映されない。 つまり、市場価値が上がっても会社に残ると給料が上がらないという状況が起きやすい。結果として、より単価の高い会社へ移ることが、賃金上昇の主要な手段になってしまう。 ■ 転職がキャリア戦略になる このような構造の中で、多くのエンジニアは次のようなキャリア戦略を取る。1社目で経験を積み、2社目で市場価値で再評価され、3社目でより高単価のポジションへ。 つまり、会社の中で昇進するのではなく、会社を変えることで昇給するというキャリアパターンである。 ■ もちろん例外もある すべてのIT企業がこの構造というわけではない。例えば外資系IT企業、急成長しているプロダクト企業、ストックオプション制度がある企業などでは、社内で大きく年収が上がるケースもある。 しかし、日本のIT業界全体を見ると、依然として転職が賃金上昇の主要ルートであることは否定できないだろう。 ■ 結論 IT産業ではスキルの可搬性が高い、市場価値の変動が大きい、日本では多重下請け構造がある、という理由から、企業内昇進よりも転職によって賃金が上昇する傾向が強い。 この構造が続く限り、「エンジニアは転職して給料を上げる」というキャリアモデルは、今後もしばらく続く可能性が高い。 (元記事: https://note.com/uni_kid/n/n2f32dcbbbe03 )